投稿日:2007-09-16 Sun
今日、懸案の映画「SICKO」をみてきました。「ボーリング・フォー・コロンバイン」「華氏911」で日本でもおなじみになったドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーアの新作です。
http://sicko.gyao.jp/
マイケル・ムーアの作品って、ようするに「世界の王者・アメリカって実はこんな異常な国なんだ」ということなんだと思っています。今回、彼がアメリカの異常さとして取り上げたのは、医療保険の問題でした。
アメリカには、国民皆保険の制度がありません。そのため、保険に入れない人がいるわけです。また、保険に入ることができても、なんやかんや理由を付けて医療費給付を受けられない人、打ち切られる人が続出します。日本ではまず考えられない事態だと思うのですが、保険会社から医療費給付を拒否された人は、数百万円にも上る医療費を払ったり、あるいは選択肢を示されて安い医療に切り替えたりといったことがよくあるということになります。映画の冒頭で示されたのは、木材を切るグラインダーで指を二本飛ばしてしまったひとが、その医療費の高さから、一本だけで妥協したという姿でした。映画の後半では、医療費の払えそうもない患者を病院がホームレス保護施設のそばの道ばたに捨ててくるというショッキングな映像でした。
ムーアは、この異常さを諸外国との比較から示してゆきます。
まず取り上げたのがカナダ。ムーアは「ボーリング・フォー・コロンバイン」でも、アメリカ同様に銃所持が認められているカナダでめったに発砲事件が起こらないことを紹介し、銃社会アメリカの異常さを際だたせていました。カナダでは国民皆保険のうえ、医療保障が充実していますので、アメリカとはまったくかかる金額が違います。カナダへ行き、そちらでカナダ人の男性と内縁関係にあると言ってもらって医療を受けるアメリカ人女性が紹介されます。エンディングのクレジットロールでは、カナダ人との結婚を勧める結婚相談所?のサイトが紹介されていました。
次に、フランス・イギリスにおける医療保障を紹介していきます。
これはけっこう印象的でしたね。イギリスの元国会議員のインタビューで、その人は、「民主主義社会である以上、政府が国民の利益になることをしてゆくことは必要だし、自分の利益を代弁してくれる人に投票すればいい」といいます。フランスでは、デモの効力が語られていました。「俺たちを困らせるとギロチン台にかけるぞゴルァ!」という伝統の国だなあと。
そして、話は911テロに移っていきます。
911テロに際して「英雄」と呼ばれた人たちの中に、後遺症に苦しむ人たちがいます。民間ボランティアで救助活動に携わった人たちの多くが、埃を吸ったことにより肺を痛めるなどして苦しんでいます。これに対して政府は、公務員でないことを理由に救済を行っていません。その実態をあぶり出すために、ムーアはこの患者さん達と一緒にキューバへ行きます。
キューバでは、911テロの犯人達が国際条約に則って手厚い医療保護を受けていることが紹介されたあと、共産主義国家における医療のあり方が紹介されていきます。911の後遺症の人たちは、ここで手厚い医療を受け、安い薬を手にします。チェ・ゲバラの娘さんだというお医者さんがキューバの医療のあり方を論じています。
キューバというのはアメリカの国民にとっては、日本人にとっての北朝鮮のような存在だと思うのですが、そう信じ込んでいたところがキューバの方がはるかに医療水準が高いという驚愕の事実、という手法は非常に効果的であったと思います。
医療を国家が保障することを、アメリカの歴代政権は「社会主義的」というレッテルで悪と見なします。その背景には保険業界のロビーズムがあるということ。しかし、医療を保障されることは、国民が国家に対して要求してなにもおかしいことではないこと。そういうことを感じさせる映画であったと思います。
この映画では、日本はまったく登場しません。
しかし、今の日本の行政が「官から民へ」「皆保険=負担増」といったレッテルを貼る実態を考えたとき、暗澹たる気分になってきます。世界一異常な国であるかもしれないアメリカを、日本はお手本にして(あるいは圧力に屈して)右へならえの態度をとり続けているからです。年金や医療保険の破綻を煽る言説の中に、「だから民間に」というアメリカニズムが紛れ込んでいるのではないかという危惧を強く感じました。ムーアがなぜ日本に取材しなかったのかと言えば、やっぱり日本が理想的な医療にほど遠いからだったんだろうな。
ちなみに、日本にも医療給付切り捨てはすでに実在します。
少し前に評判になった生命保険料の不払いが代表例ですが、他にも、損害保険の給付を社医が削ってくるということはよくあることです。たとえば事故を起こした人が対人無制限の保険に入っていても、被害者のリハビリ等に関しては、その患者を診てもいない保険会社の雇われ医が「改善の見込みなし」などの理由で給付を打ち切ると言ったことは頻繁に起こっていることです。医療保険を民間に任せると言うことはそういうことなのだということを、この映画を通して日本の人も知っておいた方がいいかなと思います。
なにより、リハビリ日数制限がこの医療給付切り捨てそのものですね。「受ける医療に制限があるなんて信じられない」と言っているフランス人が登場しますが、まったくです。
その一方で、ムーアは医療保障の充実した国の国民の税負担の問題は軽くスルーしていて、そこがこの映画に不満を残した点です。私なんかの気分としては、皆保険制度の維持と医療負担の無料化かそれに近い金額という制度を取るのであれば、消費税10パーセントでも一向に構わないと思っています。
命を守ることは自己責任ではなく国民に固有に与えられた権利であるという考え方を忘れてはならない。それはまさに、医療に対する制限を一律に課す「リハビリ日数制限」の誤りそのものでもあると感じました。フランスが出生率が上がったのも宜なるかなという感じで、未来に対する不安を取り除くことが国家繁栄の道なのだと言うことを強く感じました。
それから、この権利を要求する権利も私たちにはあるということも強く感じました。国家は、国民がものを考えなければいいと願っているのだ、とイギリスの元国会議員はいいます。「民は知らしむべからず、寄らしむべし」という言葉がありますが、デモ等を通して意思表示をするという権利をしらず、助け合いと連帯の精神を失った日本人の姿とそれは重なります。自己責任という言葉が幅をきかせたこの数年間に、私たちはまた分断され、孤立したのだという気がするのですが、
なんかうまいことまとまりませんが、まあ早いとこ(というのはそろそろ上映も終わりかもしれないから)みてくださいということで、まとまらないままご紹介します。
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